四つ目の彼女との思い出

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新しい動画、「四つ目の彼女との思い出」をアップしました。

切ない系の怖い話となります。

ぜひ、見てみてください。

 

予告編A少女、その1


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予告編A少女、その2


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予告編A少女 その3


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予告編B OP切り抜き


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本編


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本文

 

古来、日本では見た目が通常の人間と違った子供が生まれると、
忌み子や鬼子と呼ばれ、存在しないものとして隠された。

ここは、東北の山間にある小さな集落。
「ヨツ」と呼ばれる、ひとりの少女がいた。
彼女は、顔を粗末な麻布で覆っていた。
他の村人は彼女に優しく、
嫌うこともなく、のけものにすることもなく、
他のものと同じように接していた。

とある夏の暑い日。
村に行商人の男がたどり着く。
彼は、面布をつけた少女のことが気になる。
村人に聞いてみるが、
聞くなと咎められるばかりだ。
好奇心にかられた彼は、
まわりに人がいないときを見計らって、
少女の顔を覆う布を、めくってしまう。

「何をするの」

少女の大きな目が、睨みつける。
大きい玉のような黒目が、左右にふたつ。
いや、その黒目の下にも、同じような黒目がふたつ。
合計四つの大きな瞳が、行商人を睨みつけた。
行商人は悲鳴をあげ、隣町まで逃げていった。

その夜、村の者が集まっていた。
「ヨツ」という、この村の秘密が
村の外に知れ渡ってしまう。
村長は、頭を抱えていた。
今頃、あの行商人は隣町でヨツのことを
吹聴していることだろう。

よからぬ噂は、よからぬ不幸をもたらす。
この村のことを、なんとか守らなくてはならない。
村長は、自宅の中庭にある蔵を改造し、
そこにヨツを幽閉することにした。
座敷牢だ。

「ヨツ」さえ隠してしまえば、
あとは知らぬ存ぜぬで押し通すつもりだ。
ヨツの母親は泣きながら抵抗したが、
自分が世話をする、という条件で納得してくれた。
ヨツは、ただ黙って頷いた。
そして村の「ヨツ」を隠す、という風習が始まった。

 

 

(背景、コーヒー)
こんにちは、砂好きです。
今回お話する怖い話は、
(ここまでテンプレ)
目が4つもある、謎の女性と遭遇した男子大学生のお話です。
恐ろしい化け物に襲われて、とんでもない状況に陥ってしまう話かと思いきや、どうやら少し違うみたいです。

 

 


(夜空)
(虫の声)
俺は薄暗い部屋の中で、デスクに向かって背を向けた女性の後ろ姿を見つけた。

部屋の電気は消され、明かりはデスクライトのモニターの明かりのみ。
女将さんやA美ではない。後ろ姿でも判別がつく。
見たことのない着物だった。

(ぎしし)

驚きのあまり後ずさりした際に、床が大きく軋んだ。
モニターに向かっていた女性が、ゆっくりと、振り向く。

整った顔だと思った。
白く陶器のように綺麗な肌は、月明かりが差して、より美しく見えた。
しかし、俺は顔が引き攣ってくるのを止められなかった。

彼女には、目が4つあったんだ。
(フェードアウト)

 

 

「四つ目の彼女との思い出」

 

 

(鳥の鳴き声)
(背景・田舎)
今から10年前、まだ俺が大学生だった頃の話だ。
おっさん臭いかもしれんけど、俺は当時、渓流釣りにハマってた。
山奥で、せせらぎと虫の声を聞きながら竿を振る。
今思えば、釣れる釣れないよりも、
そういった場所に行くことがたぶん好きだったんだと思う。

渓流釣りに夢中になってたそんな頃。
8月のお盆明けくらいかな、東北の山奥の方に渓流釣りに向かったんだ。
学生で金も無く、青春18きっぷ使って、ローカル線乗り継いで更にバス乗って、辿り着いたのは人口4,50人くらいの小さな集落だった。
有名なのは鍾乳洞と清流くらいで、まあ辺鄙で静かなところだった。


ここは渓流釣り好きの間では、そこそこ知られたところだった。
小さな辺鄙な集落ではあったけど、一軒だけ旅館があったんだ。
俺はその旅館に滞在して、4-5日大好きな渓流釣りをやろうと思ってた。
旅館は、横溝正史の小説に出てきそうな、よくいえば趣のある、悪くいえばボロい建物だ。
普通の観光客なら気がひけるような、そんな雰囲気だった。

旅館は、女将さんと娘さんで切り盛りしていた。
娘さんは俺の歳も近いこともあって、
1泊目からビックリするくらい打ち解けられた。
ご飯が食べられて、寝られたら良いと思ってただけに、
旅館に戻って、他愛もない話ができるのは楽しかった。
それ以上に、自分と同じくらいの女の子とおしゃべりできるだけで、
まあ年頃の男なら楽しいって思うよな。
今思い出しても途中までは、ただ楽しいだけの滞在だったよ。

1-2泊した頃だったかな。
洗面所から覗く中庭にある、妙なものが気になりだした。
それは、倉庫にしてはしっかりとした建物で、
日当たりの良い中庭に、ぽつんと佇んでいた。
凝った屋根は、社のようにも見えた。
しかし、中庭にある社にしては大きすぎる。
窓まである二階建ての建物は、まるで誰かが住んでるような感じがあった。
女将さんも娘さんも、旅館の母屋で寝起きしている。じゃああの建物は何なんだろう。
気になった俺は、早速娘さん(以下A美)に聞いてみた。

「んー、倉庫かなんかじゃなかったかなー。
 小さい頃から近づくなって言われてるから、
 私もよくわからないんだー」

過去の記憶を頑張って思い出すような顔をした後、
A美は少し申し訳なさそうに言った。
「誰かの部屋?離れってわけじゃないの?」
そんな俺の質問にA美は吹き出した。
「誰かって、うちにはお母さんと私しかいないよ。
 どこの怪談なのよ、それ」

余談だけど、A美は本当に擦れてない。
上手く嘘をつけるタイプじゃないので、
たぶん本当に詳しくわからないんだと思う。
だが、その後A美は何かを思い出したらしく、
少し気になる事を言った。
「あ、でも、ごめん。倉庫じゃないのかも。
 お母さんがご飯を持って入ってるの見たことあるから。
 仕事部屋なのかな?それとも何か祀ってあるのかも」


(背景・夜空)
(ムーンライトソナタ
その日の夜中、俺はどうにも気になってしまい、中庭の建物の近くに行ってみる事にした。
満月が煌々と光っており、夜なのに夜とは思えない程明るい夜だった。
夏虫の奏でる涼しげな音の中、さくさくと中庭を歩いていく。
手入れの行き届いた庭は、芝生すら無いものの綺麗に夏草が整えられていた。

建物は、近付くと思った以上に古く、手入れが行き届いている。
趣のある建物だった。
月明かりが鈍く建物を照らす様子は、どこかの重要文化財に指定されてもおかしく無いほどの風格があった。

(やっぱり社なのか?となると女将さんが運んでるのはお供えかな?)

納得のいく推測が出来上がり、明日女将さんに詳しく聞いてみようと戻ろうとした時だった。
2階の窓から、光が差してるのが見えたんだ。
その日は、たしかに月明かりが明るかった。
でも、明らかにその光は建物の中から漏れ出ているものだった。
ドクン、と心臓が鳴る。
女将さんが中にいるのか?
でもなんで、この時間に?
疑問がぐるぐると頭の中を回る。
A美の言ったように仕事場なのだろうか。
いや、こんな時間にわざわざ母屋から出てする仕事ってなんだ?
緊張と好奇心とが、胸の中でせめぎ合う。
でも、その時の俺は若さもあって好奇心が強く、謎の建物の中に入ってみることにした。

建物の入り口は、まるで大正ロマンを連想させる、
古くて重厚な観音扉で閉ざされていた。
音が出ないことを祈りながら、ゆっくり力を入れる。
重かったが、予想より静かに扉が開いた。

入り口を開けると、まず玄関になっていた。
中は月明かりが少し差し込むのみで、
何とか足元が見えるくらいの明るさだった。
靴を脱ぎ玄関を上がる。
古い木製の床がぎしりと鳴って、心臓も跳ね上がる。
女将さんにバレずに探索するのは至難の業っぽい。
一階には他に目ぼしいものはなく、二階に通じる階段に目を向ける。
女将さんがいるのはこの先か。
音に気をつけながら階段を上ると、少しずつ明るくなっていく。
さっきの窓から見えてた明かりに近付いてるんだろう。
そして俺は、薄暗い部屋の中で、
デスクに向かって背を向けた女性の後ろ姿を見つけた。
明かりはデスクライトと、ノートパソコンのモニターの明かりのみ。
これまでより明るいとはいえ、建物の中だし薄暗い。
でも、そんな暗闇の中で気づいてしまった。


女将さんじゃない。
当然、A美でもない。後ろ姿でも判別がつく。
着ているものも、いつもの2人の部屋着じゃない。
見た事のない着物、だった。
ぎしし。
驚きのあまり後ずさりした際に床が大きく軋む。
モニターに向かっていた女性が、それに気が付いて振り向く。

整った顔だと思った。

白く陶器のように綺麗な肌は、月明かりが差して、より美しく見えた。
しかし、俺は顔が引き攣ってくるのを止められなかった。

彼女には、目が4つあったんだ。

当たり前のように2つある目の下に、更に目が2つあった。
彼女は少し驚いた顔をした後、こっちを見て微笑んだ。
綺麗だと思う気持ちと恐怖とが入り混じって、思考がぼやけてくる。
微笑んで4つとも少し細くなった目までは覚えてる。
でも、その日のその後の記憶は、今も思い出せない。


目が覚めると、冗談じゃなく見知らぬ天井があった。
どこにいるんだ、と身を起こしたところで、
渋い顔をした女将さんが俺を見下ろしていることに気がついた。
状況が飲み込めた。
ここは昨日の建物の中で、気絶した俺は今、目が覚めたところなんだろう。

「どこまでみた?」

俺が謝罪の言葉を発するより先に、
女将さんの鋭い言葉が飛んでくる。
夕飯の時に和やかに、
今日の釣りの成果を聞く優しい女将さんは、そこにはいなかった。
俺はまず謝罪し、正直に昨日の出来事を話すことにした。
俺から聞きたいことも当然あったが、
自分の非がわからないほど子供じゃなかった。

「そう」
昨日の出来事を聞いて、女将さんは短く呟いた。
そして、ようやく笑顔を見せて言った。
「朝ご飯の時間になっても来なくて探しに来たら、
 まさかこんなとこにいるとはね、
 びっくりしたわよ」

 

「僕もびっくりしました。あの、あれ、いや彼女はなんなんですか?」
ようやく少し和んだところで、まず気になるところを聞いてみることにした。
女将さんは質問に対して少し考えた後、渋々話し出した。

「見てしまったものは仕方ないものね。
 これから言うことは十年は誰にも話さないでもらって良いかしら。
 約束できるなら、あなたにならこの話してあげても良いわ」
「もちろん話しません。だから教えてください」
どうせ見たものをそのまま話しても、
夢を見たんだろ、で片付けられてしまうに決まっている。
だから本当に、他人には話すつもりはなかった。


ここからは、やや信じがたい話も含まれる。
女将さん曰く、昨日見た彼女は集落の中で、
「ヨツ」と呼ばれるものだそうだ。

ヨツと呼ばれる子供は、この集落で稀に生まれるらしい。
女将さんは、鬼子という言葉で説明してくれた。

ヨツの特徴は、名前の由来の通り目が四つあること。
それと、見た目だけ見ると殆ど歳を取らないことだそうだ。
昨日見た彼女も、本当は九十近い年齢らしい。

ヨツは、見た目が異様なだけで、人に危害を加えるわけではない。
そのため、生まれてしまった家は、
ヨツを人の目に触れぬようにひっそりと育てられるのだとか。

「今のヨツはね、さっき話したように九十を越えている。
 寿命は普通の人間と変わらないから、もう長くないと思うのよ。
 それで今、この集落は若いものが、うちの娘くらいしかいないでしょ」

「このままだとヨツは途絶えてしまう、と」

「そう。でもね、途絶えて良いものだとも思うの。
 ヨツは生まれた時から、外に出られなくて、
 そんなのすごくかわいそうじゃない」

たしかに生まれてからずっと外に出る事もなく、
ひっそりと一生を終えるなんて・・・。
好きでそんな見た目に生まれたわけでもないのに、
とても残酷だと思った。

「あんなに、綺麗なのに」

最後にふと出てしまった俺の言葉に、女将さんは驚いた顔をした。
綺麗なものを綺麗だと思うことは間違ってるんだろうか。
女将さんは微笑んでいる。何か意味があるのだろうか。

女将さんからは、十年は誰にも言うな。と言うことと、
金輪際、中庭の建物に近付くな。という事を約束させられた。
でも、悪いと思ってはいたが、俺は約束の一つを守ることができなかった。

 


その日の夜も、俺は中庭の建物に向かっていた。
滞在は明日までなので、どうしても最後に彼女に会っておきたかった。
昨日と同じように二階にあがる。
来ることがわかっていたのか、彼女は僕の方を見るなり話しかけてきた。

「今日も来てくれてありがとう。
 昨日は驚かせてごめんなさい」

鈴の鳴るような、響きの良い声だった。
四つの目も、少し微笑んでるように見え、
会いに来て良かったと思った。

「こちらこそ不躾にお邪魔して、すみませんでした。
 明日東京に帰る前に、どうしても会いたくて」

どうしても会いたくて、なんて言葉が
さらりと自分の口から出たのは意外だった。

それからはたくさん、彼女の話を聞き、
また、俺自身の話もたくさんした。

もっと早く会いに来れば良かった。
そんなことを繰り返し、
俺が話していたのは今でも覚えている。

 

とても一晩じゃ話し足りないくらい、色んな話をした。

彼女の見てきたものは、パソコンのモニターを
通したものだけだった。
でもなぜか、そんな話でも、
その日の俺は興味を持って、聞くことができたんだ。

「辛くないんですか」

空が白み始めた頃、俺はついポロッと
突っ込んだことを聞いてしまった。
そんな言葉に彼女は目を伏せ、少し悲しそうに微笑んだ。

「辛いですね。私は外に出られないし。
 お金を稼ぐことが出来ないから。ただ姪(女将さんのこと)の
 負担になってしまってるのが辛いです」

優しい人なんだと思った。
どうにかして力になりたいと心から思ってしまった。
俺はそんなことを、自分なりの言葉にして彼女に伝えた。

「ありがとうございます。
 でも私、聞いてるかもしれないけど、もう長くないんです。
 その気持ちだけで充分ですよ。それが聞きたかった」

そう言って、彼女は俺に抱きついてきた。

落雁のようなほのかに甘い彼女の匂いに、
夢のような現実が更に深まっていくのを感じた。

そこからはお互い、気持ちを抑えられなかった。

不老というのは本当で、彼女の肌は全く年齢を感じさせなかった。
たぶん、年齢という概念が普通の人とは違うんだろう。

俺にとってその夜は、
その前日の初めて会った夜以上に、忘れられない夜となった。


「また、逢いましょう」

早朝ひぐらしが鳴き始める中、
階段を降りようとする俺の背中に、彼女はたしかにそう言った。
俺は、振り返りもせず建物を出た。

もう会えないだろう、もっと早く会いたかった。
数時間前まで、そんなことを二人で言っていたのに。

あれから十年、つまり現在。
俺は大学を卒業し、就職し、
そこで知り合った女性と結婚した。
子宝にも恵まれ、
今年の春には産まれる予定だ。
ただ先日、嫁の行ったエコーに
気になるものが一つだけあった。
ここまで読んだ人には、ピンとくるかもしれないが、
あの特徴があった。
医者からは、出産を取りやめるよう提案されたが、
俺は産んでもらうつもりだ。

あのヨツとの出会いと、
何か因果関係があるのかは、俺にはわからない。

もしかしたら、女将さんが言わなかった、
何かしらの秘密が、ヨツにはあったのかもしれない。

あの日、「また会いましょう」という言葉を彼女は、
どんな表情で言ったのだろうか。