【BLホラー】鏡の中の君へ -永遠の君への願い-

あの古民家に初めて入ったのは、とある夏の日だった。


僕は友人の拓海と勇太の三人で、いつものように近所の公園で遊んでいたんだ。


そこで拓海が「あの古民家って、お化け屋敷らしいよ」って言い出したんだ。

興味を持った僕らは、その古民家へ探検しに行った。


古びた木造の建物は、まるで廃墟みたいで正直ちょっと怖かった。

でも好奇心の方が勝っちゃったんだよね。


中に入ってみると、埃っぽくて薄暗い。

窓から差し込む光も少なく、静かでちょっと不気味な雰囲気だった。


「うわ、なんか怖いな」

ラクタに埋もれたような部屋が続く。

その一番奥の部屋だけは、

ほとんどゴミも、家具さえも置かれていなかった。


その部屋の中央に、朱色の布を被せられた何かが置かれていた。


勇太がそっと、布をめくる。

古い鏡が、姿を現した。


「うあ、なんだ、この鏡」

勇太が、そう言って鏡に近づこうとした時、

拓海が慌てて彼を止めたんだ。


「やめろよ! 昔、この家に住んでた人が、

この鏡に閉じ込められたって噂があるんだぞ!」


拓海は、真顔でそう言った。


「マジ!? 怖いじゃん」


勇太は急に怖くなったみたいで、鏡から離れた。

僕はその鏡を見て、なんか妙な感覚を覚えたんだ。


鏡に映る自分の顔が、いつもと違う。

少し歪んでいて、ゆらゆらしてて、なんか不気味に見えたんだ。

まるで、自分じゃないみたいだった。


「なんか、気持ち悪いな…」


そう呟くと、拓海が僕に言ったんだ。


「お前、なんか変な顔してたぞ」

「そう? 気にしてなかった」


僕は、いつものように笑ってごまかしたけど、

内心、少し不安だった。


その日はそれっきり、何も起こらずに古民家を後にした。

僕はずっと、鏡に映る自分の顔を見つめてしまうようになっていた。

鏡の中で見た、あの少年の顔が忘れられなかった。



次の日、勇太が学校を休んだ。


「勇太、どうしたんですか? 」


心配した拓海が、勇太の家に電話をかけたらしい。

すると勇太の母親が、夕食のとき突然倒れて、

そのまま病院に運ばれたと教えてくれた。


僕らは不安になった。

勇太は、あの古民家で鏡に近づいた時、

何かに祟られたんじゃないか。


僕と拓海は、放課後に勇太の病院へ駆けつけた。

勇太は、意識不明の重体だった。

僕は、管だらけになって眠っている勇太の顔を見て、

不安でいっぱいになった。


そして勇太の病室で、僕たちは信じられない光景を目にした。

意識のないはずの勇太の目が、一瞬開いたんだ。

その目は、白目が無く真っ黒だった。

まるで地面に開いた、どこまでも続く穴のようだった。



勇太は意識を取り戻すことなく、

そのまま亡くなってしまった。


勇太の死は、僕たちに大きな衝撃を与えた。

古民家の鏡のせいなのか?

それとも、単なる偶然なのか?


拓海は、あれから塞ぎ込んでしまって、

あまり学校に来なくなってしまった。

僕は、拓海に宿題のプリントを届けたあと、

また古民家に再び足を運んだ。


勇太を救えなかった悔しさ。

そして、鏡に映った自分の姿への恐怖。

その恐怖に立ち向かうためには、

あの鏡の真実を知るしかないと思ったんだ。


荒れた古民家の中にひとりで入る。

問題の鏡に向かう途中で、古い日記を見つけた。


日記には、かつてこの古民家に住んでいた一家が、

鏡の中に閉じ込められたという恐ろしい物語が書かれていた。


鏡に映る少年は、その一家の子どもだった。

そして彼は、鏡に封印された存在、いつきと名乗っていた。


いつきは、鏡の中に閉じ込められたまま、

助けを求めているようだった。

僕は、いつきを救いたいと思った。

でも、どうやって?


その晩、僕は悪夢を見た。

鏡に近づけば近づくほど、鏡の中のいつきが、僕に近づいてくるという悪夢だった。

いつきが伸ばした両腕が、僕の体を包み込む。

いつかは僕自身も、鏡に閉じ込められてしまうんじゃないか。

そんなことばかり考えるようになってしまった。



その頃、学校に新しい転校生が来た。

神崎 遥。

彼は僕より少し背が高くて、都会的で、落ち着いた雰囲気の少年だった。

僕の心は、遥に釘付けになってしまった。

正直、片思いをしてしまった。

でも、この想いは誰にも言えず、心のなかにそっと潜めていた。


僕たちは、すぐに仲良くなった。

驚いたことに遥は、僕と拓海が古民家を訪れたことを知っていた。

そして、僕に衝撃的な告白をしたんだ。


「あの鏡の中にいる少年は、僕なんだ」



「え…? 」


僕は、驚きを隠せなかった。

遥は、鏡の中にいる少年が、自分の魂だと説明してくれた。

そして僕に、鏡に閉じ込められた理由を語り始めた。

それは、遥の過去に隠された、恐ろしい秘密だった。


遥はかつて、この古民家に住んでいた一家の子孫だと明かした。

彼の家族は昔、鏡の封印を解こうとしたが、失敗してしまった。


そのときに遥の父親が鏡の中に閉じ込められてしまったらしい。

そして遥は、父親の魂を受け継いでしまったんだ。

彼は父親を救うために、鏡の封印を解かなければならない。


でも同時に、彼は鏡に引き込まれる恐怖に怯えていた。

遥は僕に、力を貸してほしいと頼んだ。


「僕と一緒に、鏡の封印を解いてほしい。父さんを助けたいんだ」


僕は、遥の心の底に触れた気がした。

彼への恋心のせいもあったと思う。

でも彼の切実な願いに心を打たれ、本気で助けようと決意したんだ。


「分かったよ、僕も手伝うよ」



そして僕と遥は、古民家へと向かった。


鏡の中にいるいつきは、一体何者なんだろう。

遥の父さんじゃないのか。

そして僕と遥は、いつきを救うことができるのか?

その答えを求めて、僕らは鏡の前に立った。


遥は、鏡に映る自分の姿をじっと見つめていた。


「いつき… 聞こえる…? 」


遥はそう呟くと、鏡に向かって手を伸ばした。


すると鏡から冷気が流れ出し、古民家は急に寒くなった。

そして、鏡に映る遥の姿が歪み始めたんだ。


「うわ…! 」


僕は、恐怖で言葉を失った。

遥の目が、鏡の中にいるいつきと同じように真っ黒になっていく。


「奏太… 助けて… 」


遥はそう呟くと、鏡の中に吸い込まれていった。

僕は、慌てて鏡に手を伸ばしたが、届かない。


「遥…! 」


僕は鏡に向かって叫んだが、返事はなかった。

鏡は、再び静かになった。



僕は今、目の前で起こった出来事を思い出し、恐怖に震えた。

遥を救うために、鏡の封印を解かなければならない。

でも鏡の封印を解く方法なんて、さっぱり分からない。


僕は古民家をくまなく調べ、過去の記録や日記を読み漁った。

そして、ついに鏡の封印を解く方法を見つけ出したんだ。


鏡の封印を解くには、鏡に映る自分の魂を捧げなければならない。

それはつまり、自分の残りの寿命を捧げる、ということ。


僕は、遥を救いたい。

僕は鏡の前に立ち、深呼吸をして、目を閉じた。

「遥… 僕を許してくれ… 」

僕はそう呟くと、鏡に映る自分の姿に手を伸ばした。


そして自分の命を少し、鏡に捧げた。

鏡が光り輝き、古民家は激しく揺れた。

そして、鏡から遥の父親が現れた。



「遥…! 」


遥の父親は遥の名前を呼びながら、僕に向かって歩み寄ってきた。

彼は、鏡に閉じ込められた間、ずっと遥を心配していた。

そして彼は、鏡に閉じ込められていたことに、深い後悔を感じていた。


「遥を、守れなかった… 」


遥の父親はそう呟くと、煙のように静かに消えていった。


僕は、鏡を見つめながら放心していた。

鏡の中の父親を救うことが出来た。

でも、遥が消えてしまった。

多分、父親の代わりに鏡の中に飲み込まれてしまったんだ。


僕には、愛する遥を助ける術が無い。


すべてが終わった…そう思った。

その時だった。

鏡に映る自分の顔が、再び歪み始めたんだ。

そしてあの少年、いつきの顔が現れた。


「僕を… 置いて… 行かないで… 」


いつきはそう言うと、霧のように消えてしまった。

鏡に閉じ込められた少年・いつきは、まだそこにいた。

遥の父親では無かった。


彼は、まだ救われていない。

僕は再び、鏡に引き寄せられるような感覚を感じた。

しかし僕は、古民家から逃げ出した。



その後、僕は高校を卒業したあと古民家の近くに引っ越した。

鏡は、今でも最奥部の部屋に存在している。


遥は、父親の魂を解放したことで、

鏡に縛られる恐怖から解放されたんだと思う。

でも、そのまま鏡に飲み込まれてしまった。


僕は、なるべく時間を作っては古民家に立ち寄り、鏡の前に立つようにした。

遥は、今でもこの鏡の中にいる。


いつか、僕も遥のところに行けるんだろうか。

鏡から突然、いつきの手が伸びてきて、

僕を掴んで、引っ張ってくれないだろうか。


そうしたら、僕は遥と一緒のときを過ごせるのに。