逃げ場のない真夜中の大学図書館。息詰まる暑さと静寂の中、私の背筋に冷たい恐怖が這い上がる。ページをめくる音、かすかな咳払い。振り返る度に、誰もいないはずの空間に人の気配が漂う。やがて、古風な服装をした謎の女性が現れ、私の不安は頂点に達する。彼女は救いとなるのか、それとも恐怖の案内人なのか?
蒸し暑い夏の夜、
アパートにいると息が詰まりそうだった。
私は涼しくて静かな大学の図書館へ向かった。
試験期間中は深夜まで開館しており、
絶好の勉強場所でした。
図書館は珍しく閑散としていて、
私の足音だけが静寂を切り裂くように響いていた。
窓際の奥まった席に座り教科書を広げるが、
誰かに見られているような気がして、
どうも集中できない。
恐る恐る振り返る。
やっぱり、そこには誰もいなかった。
深呼吸をする。
単なる思い過ごしだと自分に言い聞かせた。
勉強に戻ろうとしたが、落ち着かない気持ちは拭えなかった。
その時、パラパラとページをめくる音が聞こえてきた。
ゆっくりと顔を上げると、
少し離れたテーブルの向こう側に女性の背中が見えた。
読書灯の下に座り、長い黒髪を背中に垂らしている。
あまり見かけない、古風な服を着ていた。
その姿を見て、私は少し安堵した。
自分一人ではなかったのだ。
私は勉強に戻ったが、
その後も物音が何度か聞こえてきた。
小さな物音。
誰かが動いたり咳をしたりするような音だ。
そのたびに顔を上げたが、
女性は相変わらずそこにいて、
本を読んでいるようだった。
腕時計を見てみる。
もう日付が変わっていた。
疲れていたが、まだ勉強する必要があった。
その時女性が立ち上がり、出口に向かって歩き始めた。
私は彼女が去っていくのを見守っていたが、
図書館から出る瞬間、彼女は振り返った。
まるで私に気づいたかのように。
振り返った彼女の顔は真っ黒で、
まるで黒い影がゆらゆらと揺れ、そこに立ち昇っているようだった。
白い目だけが、暗闇の中に浮いていた。
その目が、じろりと私を見つめる。
それから彼女は再び前を向き、ドアから出て行った。
また、図書館に静寂が戻る。
私は自分が息を呑んでいたことに気づいた。
恐怖が全身を駆け巡る。
私は急いで荷物をまとめ、逃げるように図書館を出た。
駐車場は不気味なほど静かで、
オレンジ色の街灯の光がアスファルトに長い影を落としている。
急いで車に駆け寄り、ドアに鍵をかけた。
窓越しに外を見ると、街灯の下にさっきの女性が立っていた。
黒い影が、揺れている。
私を、じっと見つめている。
恐怖で体が硬直した。
そして、まるで煙のように、彼女は消え失せた。
それ以来、私は二度と図書館に行っていない。