殺し殺され、振り振られ

 

怪談「山の上の廃墟・前日譚、殺し殺され、振り振られ」

https://youtu.be/ZmVvQuVbnpg

https://www.nicovideo.jp/watch/sm40674671

 

 

(ニュース番組)

 

山間にある〇〇県のXX町で、男女の殺人犯が潜伏中。

地元警察は県警に捜査協力を仰ぎ、犯人の行方を追っているとのことです。

 

 

女性Aは、高校を卒業して地元のスーパーでパートとして勤務していた。

高校時代に束縛の強かった元彼Bから開放され、

豊かではないが、幸せな毎日を送っていた。

 

 

仲の良かった友人の結婚式からの帰り道、

女性Aは赤いドレスを着て、軽自動車を運転していた。

もう少し、抑えめの色でもよかったかもしれない・・・。

ぼんやりと、そんなことを考えて交差点を右折する。

対向車線を走っていた、白いワンボックスカーが信号無視をして直進してきた。

 

避けようとおもうが避けきれず、女性Aの乗っていた軽自動車は歩道に乗り上げ停止する。

相手の車に乗っていたのは、

TVニュースで殺人犯として報道されていた、犯人の男と女だった。

荷台には、汚れたスコップとロープ。

死体を山に埋めてきた帰り道であった。

犯人の男が車を降りて、女性Aのもとに向かってくる。

無言で、何かを決意している顔をしていた。

 

 

その三十分後、女Aは車の後部座席にいた。

自分の所有する軽自動車ではなく、

前方がひしゃげた白いワンボックスカー。

さきほどの事故現場から少し離れた、山へと向かう峠道を走っている。

運転しているのは犯人の男。

そして、犯人の女が助手席で不機嫌そうにスマホをいじっていた。

 

ふいに、女が運転している男に話し始めた。

そのすきに、女Aはスマホで助けを求める。

110では、状況を説明する時間がない。

LINEでひとこと、「助けて、連れ去られた」とだけ送る。

相手は、高校時代に付き合っていた元彼Bだった。

束縛が強すぎて、喧嘩別れした男。

それでもいい、誰でも良かった。

それに気づいた犯人の女。

スマホを奪い、車の窓から投げ捨ててしまった。

 

 

車が止まる。

場所は、山へと向かう峠道の途中にある開けた場所。

そこに生活感のない建物があった。

この建物は別荘として建てられ、現在は殺人犯の潜伏先として使われている。

別荘のなかに乱暴に連れて行かれる女性A。

倉庫として使われていた天井の低い地下室に放り込まれた。

 

 

そのとき、別の場所。

女性Aの地元。

そして、束縛の強かった元彼Bの住む土地。

元彼Bが手に持っているスマホの画面には、
あの別荘付近の地図が表示されていた。

 

女性Aのバックには、今もエアタグが仕込まれていた。

エアタグとは、持ち物追跡タグと呼ばれるものだ。

小型で電波を発信し、とりつけた物を紛失したとしても、

GPS機能によって、すぐに場所を追跡できるものだった。

束縛の強かった元彼Bは、別れたあともその装置を使い、

女性Aの位置情報を追跡しつづけていたのだった。

 

 

女性Aが監禁されている地下室に、

血まみれで顔を腫らした男が連れてこられた。

元彼Bだった。

連絡を受けて助けに来たはいいものの、別荘を探索中に犯人の男に捕まってしまった。

警察への連絡もしていなかったという。

よろめく足で、女性Aの隣に突き飛ばされる。

犯人の男が地下室を出ていこうと振り向いたとき、

元彼Bは、犯人の男に体当たりした。

呻く犯人。座り込み、息を切らす元彼B。

手には、血の付いたナイフが握られていた。

呆然と、それを眺める女性A。

元彼Bは、ナイフを握り直すと犯人の男に突き刺した。

果物のように人間の体に刃物が突き刺さる。

犯人の男は、倒れたあと痙攣して、動かなくなった。

 

騒ぎを聞きつけて、犯人の女が階段を降りてきた。

呆然とする女性A、血まみれで座り込んでいる元彼B。

そして、倒れて動かなくなった犯人の男。

状況を把握した犯人の女は、激昂して元彼Bを蹴り飛ばした。

まわりに体をぶつけながら、もみくちゃになる二人。

 

 

唐突に、静寂が訪れる。

犯人の女は倒れ、呻いている。

それを立って、眺めている元彼Bの背中が見える。

ゆっくり振り向くと、元彼Bの腹にはナイフが刺さっていた。

震える手で、それを引き抜くと血がこぼれ落ちる。

逃げよう。

呆然とする女性Aの手を掴み、強引にでも立ち上がらせて地下室をあとにした。

 

駐車場に、あのワンボックスカーが止まっている。

キーは、近くのテーブルの上に置いてあった。

元彼Bは、もう限界のようで、車を見つけたあと気が緩んだのか座り込んでしまった。

運転席のドアを開けたのは、女性Aだった。

鍵を挿し、エンジンをかける。

ほら、早くとせかし、元彼Bを助手席に乗せた。

 

スマホで助けを呼ぼうにも、あの女に窓から投げ捨てられた。

車を運転して逃げるしかない。

元彼Bは腹を刺され、助手席で苦しそうにしている。

女性Aがハンドルを握り、アクセルを踏んだ。

 

ハンドルを握りながら、叫ぶ女性A。

恐怖心からか、開放感からだろうか。

深夜の峠道、車の一台もすれ違わない。

どれくらい走っただろうか。

助手席の男は、先程から動いていない。

肩を触ると、もう冷たくなっていた。

 

曲がりくねった峠道、急ぐあまりスピードを出しすぎて道を外れてしまった。

車はガードレールを突き破り、そのまま落下していく。

スローモーションでゆっくり、崖を転がる岩のように落下していく車。

つづら折りになって折り返してきた下の道のガードレールにぶつかって、ようやく止まった。

 

煙につつまれた車内。

鉄製の車体が、紙の箱を手でぐしゃっと握られたようにひしゃげていた。

真っ白な肌と真っ赤なドレス。

口からは真っ赤な血が垂れている。

運転していた女性Aの体は、シートとダッシュボードに潰され、

ハンドルの支柱が、その体を突き破っていた。