ひとちかくれんぼ

 

90 名前:本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2022/11/15(火) 02:38:08.37 id:oZI0YQco0 [2/16]

これを見てる人は、どれだけいるだろうか。

半年前、俺はとんでもないことをやらかしてしまった。

その結果、友人も失った。

 

それから葬式やら何やら色々あってさ。

変死扱いで警察も来て、色々話を聞かれたよ。

何が起きたか正直に喋ったらさ、ただの頭のおかしいやつって思われたみたいだった。

 

正直、俺一人だけであの体験を抱え込むのは、正直しんどいんだ。

誰かに聞いてほしいから、ここに書き込むよ。

もし、これを読んでやべーことが起きたら俺のせいかもしれん。

そのときは、すまんな。





では、話させてもらう。

俺は大学二年生で、地元の大学に通っている。

友人に、すげーオカルト大好きなヤツがいたんだ。

俺もホラーとかゾンビ映画とか、そういうの好きだったからさ。

結構話が合って、ネットで拾った怖い話や動画なんかを教えてもらっていた。

 

ある日、そいつが「ひとりかくれんぼ」をやろうって言い出したんだ。

ネットでは、そこそこ有名な降霊術らしい。

こっくりさんやエンゼルさんみたいなものだな。

ひとりかくれんぼなのに、二人でやるのか?」

そう突っ込む俺に、だって一人だと怖いじゃんと返す友人。

まあ、たしかにそうだろう。

友人はネットで、準備する物や段取りなんかを色々調べてきた。

 

必要な物メモ

・手足があるぬいぐるみ

・米、少々

・縫い針と赤い糸

・切ったばかりの自分の爪

・包丁などの刃物

・コップ一杯の塩水

 

友人の話だと、You Tubeでゆっくり怪談の動画を作って投稿したり、Twitchで怪談動画のライブ配信をしている人がいるらしい。

その人の動画を見て、ひとりかくれんぼを知ったとのこと。

 

次の週末に俺の部屋で、それをやってみようって話になった。

元々、友人が彼女に振られたって聞いたから、

週末はうちで飲んで慰めようかと思ってたんだ。

なので俺は、軽いノリでおkを出したんだ。

あんとき、やめておけばな。





週末の土曜日、なんか朝からペットのインコが騒いでいる。

体調が悪いのかな。

 

夕方、友人が俺の部屋に到着した。

いつものごとく、あいつのリュックの中には、

大量の酒やらつまみ、お菓子、食い物なんかがぎゅうぎゅうに詰まっていた。

いつもと違うのは、ひとりかくれんぼのために用意したグッズ類が入っていたことだ。

ぬいぐるみや塩、コップ、ライター、御札なんかもあった。

すべて、アマゾンや100円ショップで買い揃えったと言っていた。

 

その晩は、酒を飲みながらゲームをやったりホラー映画を見たりしていた。

そして、部屋の時計は午前二時を指した。

ひとりかくれんぼは、午前三時に開始しなければならない。

俺たちは、その準備を始めた。




気分を盛り上げようと、よく分からない御札を部屋の四隅に貼った。

Amazonで買ったものらしいのだが、梵字は読めないし、何に効くのかさっぱり分からない。

 

ぬいぐるみは、二人で持ってきた。

友人が持ってきたぬいぐるみは、バスケットボールサイズのフクロウのぬいぐるみ。

前後に顔がついている、不思議な形をしていた。

「これは、フクロウのフクちゃん」

友人が笑って言う。

なんだよ、これ?と聞いたら、よく分からないけど、親父の部屋から勝手に持ってきたものだそうだ。

ちゃんと中身の綿を取り出して、米入れて塗ってきたんだぞと偉ぶっていたが、そもそも手足の無いぬいぐるみは使えない。

ごめん、それ使えないよというと、少し文句を言っていたが、なんとか了承してくれた。

 

結局、俺が用意した特大サイズの熊のぬいぐるみを使うことにした。

ぬいぐるみなんてよく分からないから、Amazonで人気の有りそうなのを適当に選んだら、これになった。

うちに届いてから三日ほど部屋に飾っておいたんだけど、男でも意外と愛着が湧くものだな。

この儀式に使ってしまうのは、ちょっと名残惜しい。

なるべく愛着が湧かないように、嫌いな物の名前を付けていた。

「名前は、ニンジンだ」

俺が命名すると、なんだそれと友人は笑った。

 

俺は準備をしていなかったので、ぬいぐるみの腹を切り裂いて、中の綿を取り出した。

米と爪を入れた袋を入れて、さて閉じようとしたとき友人に止められる。

どうやら、ぬいぐるみに入れるものによって、危険度は変動するらしい。

爪は危険度一の初級編、それから毛髪や唾液になって危険度は上がっていき、最高レベルの危険度四となるのは、血液なんだそうだ。

「そこでだ」

友人がドヤる。

何か、二センチくらいの小さな箱を取り出した。

 

「うちの婆ちゃんの使っている、血糖検査キット持ってきた」

友人が真面目な顔で話す。

糖尿病のひとが、血液中の血糖値を測るために指先に針を刺して、ちょっとだけ血を採取するための道具らしい。

要は、バネでちっちゃい針を飛び出させる箱だった。

 

自分の人差し指の先に箱を当てて、スイッチを押す。

プチ。

「痛てて」と友人が自分の指を絞ると、指先から豆粒ほどの血が出る。

あいにくハンカチは持っていなかったから、そのへんにあったティッシュに染み込ませて、ぬいぐるみに詰め込んだ。

あとは、赤い糸でぬいぐるみの腹を縫う。

今更ながら、悪趣味な儀式だな。

 

あとは、隠れ場所が必要なのだが、押入れは壊れて動かないストーブやらめったに使わない掃除機やらがごちゃごちゃに詰め込まれている、

当然、人間が入るスペースなんて無い。

しょうがないので、パソコンを置いてある机の下に隠れることにした。

そこに、塩水を入れたコップを用意する。

台所にいって、コップに水を入れ塩を振りかける。

 

暗闇のなか、テレビだけをつけ砂嵐を流さなくてはならないのだが、あいにく家にはテレビが無い。

机の上にiPadを置いて、砂嵐動画を流しっぱなしにすることにした。

知らなかったが、砂嵐などのホワイトノイズを長時間流す動画は、赤ちゃんの寝かしつけ用に重宝されているみたいだった。





あれこれとやっていたら、もう午前三時になってしまった。

俺と友人は、顔を見合わせて儀式を開始する。

ひとりかくれんぼ」のスタートだ。

 

1Kアパートの狭い風呂場に、大学生の男二人が包丁とぬいぐるみを持って立っている。

狭苦しいが、ワクワクしていた。

アホだな俺。

「最初の鬼は(友人の名前)だから」

友人は三回、そのセリフを言うと、水を張った浴槽にぬいぐるみを沈める。

ブクブクと沈むぬいぐるみを見ていると、大っ嫌いなニンジンの名前をつけたのに、少し心が傷んだ。

それから部屋中の電気を消して、砂嵐動画だけを流す。

午前三時だから、音量は控えめにしておいた。

「作業用だけあって三時間もあるぞ、この動画」

そう笑う友人には、まだ余裕があったんだと思う。

 

二人で目をつぶって十秒数える。

包丁を手に持ち、先ほど水に沈めたニンジンを取り出し、洗面台に置く。

「ニンジン、見つけた」

そう言って、友人はぬいぐるみに包丁を突き立てた。

溢れる米、洗面台が詰まりそうだった。

 

「次は、ニンジンが鬼」と三回言って、俺らは部屋に戻る。

楽しみつつも、異様な雰囲気で少しびびっていた俺は、塩水の入ったコップをしっかり握っていた。





儀式を開始してたしか、五分くらいたった頃だと思う。

突然、部屋中に水が沸騰する音が響いた。

音の方向は分からない、台所では無いようだ。

かき消すほどに、明らかに砂嵐の音より大きい。

怖いとか不快というより、そのときは近所迷惑を心配してしまった、午前三時だしね。

そのあと、いつのまにか砂嵐の音が聞こえないことに気づいた。

 

ふと部屋の壁を見ると、四隅に貼られた御札のうち、台所側の二枚が、黒く縮んでいた。

あれ?と思い、近くに置いていた盛り塩をみると、真っ白だった塩が真っ黒く炭化していた。

 

突然、友人のスマホが鳴った。

まじでびびったよ。

電話が出ると、友人の元カノ、ユカちゃんだった。

「あんた、今なにしてんの?」

ちょっと怒っているみたいだ。

となりにいる俺にまで、その声が聞こえてくる。

「なにやってんの?」

「友達と、ひとりかくれんぼやってる」

「バカじゃない!、今すぐやめて、すぐやめて!」

かなりブチギレているようだった。

 

「わかったから、もうやめるから・・・。」

なんとかなだめて、友人は電話を切った。

 

一息ついて、友人がなんでもないような顔をして、

「あいつ霊感があるんだよ、だから電話をかけてきたんかな。

付き合い初めの頃は色々うまくいってたんだけど、なんか突然振られた。

よく分かんないよな、女って」

そうつぶやく。

 

ユカちゃんは友人の元カノで、俺も何度も会ったことがある。

というより、元々は俺のバイト先の同僚だ。

黒髪で女性にしては背の高い、サバサバしてる可愛い子で、住んでいるアパートが近くだったので、仕事中はよく彼女と話していた。

去年だったか、バイト先に友人が遊びに来て、それで知り合ったらしい。

ただ、ユカちゃんがサブカル好きなのは知っていたが、霊感があるなんて知らなかったけど。

 

「もう十分だろ、終わらせよう」

怖くなってきた俺は、友人にそう提案した。

「おう」

ちゃかされると思ったが、

友人も、同じ気持ちだったのか、すぐ同意してくれた。

 

儀式の終わらせ方は、スマホでメモっておいた。

 

用意した塩水を少し口に含んでから、隠れ場所から出て、ぬいぐるみに対して残りの塩水、

口に含んだ塩水の順にかけ、「俺の勝ち」と三回宣言する。

これで、「ひとりかくれんぼ」は終了となる、はずだった。





口にふくもうと、塩水を入れたコップを持ち上げた瞬間、コップが破裂した。

何が起きたか、そのときは訳が分からなかった。

手にコップの残骸をもったまま、俺はびしょ濡れになってしまった。

もちろん隣の友人もびしょびしょだ。

 

塩水の予備は作っていなかったけど

台所に、残りの塩とミネラルウォーターのペットボトルがある。

あれを使って、もう一度塩水を作るしかない。

 

友人は濡れたまま、部屋の隠れ場所に戻り、俺は塩と水を取りに台所に行くことにした。

儀式の最中は明かりをつけてはいけないので、スマホの明かりだけを頼りに進む。

予備の塩が置いてある台所のテーブルまで来た。

 

ペットのインコが騒いでいる。

動物は、何か分かるんだろうか。

とくに、おかしなものは何も見えない。

 

塩と水を手に入れる。

やった、これで終わらせられる。

 

ふと、また鳥かごを見る。

インコがいない。

あれ? と思ったが、帰ろうと振り向く。

ひしゃげた鳥かごと、擦り潰されたインコが、床に放り投げられていた。





おかしな音がした。

何かの鳴き声?

ニワトリの鳴き声を逆回転したような、

動物の絶叫のような、とにかく不快な音だった。

 

振り向くと、風呂場の摺りガラスの向こうに何かが立っている。

人影だ。

細身で髪が長い影だった。

女性だろうか、異常に手足が長い。

荒い息遣いが聞こえる。

かすかに、甲高い声で、「聞こえる、聞こえる」と言っていた。

その影は今にも、風呂場から出てきそうだ。

手が、ゆっくりと持ち上がる。





全力で部屋に戻り、部屋の引き戸を閉め机の下に潜り込む。

「うあああ、あああ」

説明しようにも、ショックで何も言えない。

不思議がっている友人の目の前で、ヤツが風呂場から出てきた。

小さな頭部、長い黒髪、枯れ木のような手、異様に長い指、そして人間離れした長さの足が、風呂場から出てくる。

 

その様子を一緒に見ていた友人は、目を見開いたまま固まっていた。

部屋の引き戸の向こうに、ヤツがいる。

1kアパートなので、3メートルもない距離だ。

全身が真っ赤な影、男の俺より背が高い。

髪の毛は長く、燃えているようにゆらゆらしていた。

 

俺はションベンをもらすくらいビビった。

多分、友人も同じだと思ったが、それ以上に、こいつは正真正銘のアホだったんだ。





友人は机から飛び出す。

「化け物には化け物をって決まってんだろ!」

大声を出し、自分が持ってきたぬいぐるみを手に取る。

前後に顔のついたフクロウだ、すでに米を詰めてある。

婆ちゃんの血糖検査キットを三本を、同時に手のひらに刺し、

フクロウの顔に塗りたくる。

「三本分の血を入れてやる、つえーやつ来いよ!」

 

血まみれのぬいぐるみを手に持ち、前に突き出す。

「最初の鬼は俺だ、フクちゃん見つけた!」

友人が狂ったように包丁で、フクちゃんを刺しまくる。

中に入った米が撒き散らされ、あたりに散乱する。

「次は、フクちゃんが鬼!」

ぬいぐるみのフクちゃんを、引き戸の方にぶん投げた。

俺は、唖然となってその奇行を眺めていた。





引き戸に叩きつけられ、床に落ちたフクちゃんは、

そのままずぶずぶと、フローリングの床に沈んでいった。

まるで、海に沈むように。

 

フクちゃんと交代するように、床から小さい手が出てきた。

可愛らしい、幼児の手だ。

大きな頭をうまく支えられず、ゆらゆらと揺れながら現れたのは、二歳ほどだろうか、人間の幼児に見えた。

おむつをしているのか、お尻がぽっこりと膨らんでいる。

ハイハイして、引き戸の前に座り込んだ。

少し茶色の髪の毛が、くしゃくしゃに乱れている。

こちらを振り向くと、人間の顔ではなかった。

通常の倍以上に、異常に見開かれた目。

顔の上半分が透明で、頭蓋骨の前側と眼球が、透けて見えている。

頭の内部から発光しているのか、あたりをぼんやりと照らしていた。

 

「腹の減りし、すみづみまで食ひ尽くさまほしき、血が飲まばや・・・」

 

眼の前の幼児が、老人のような声で話す。

 

フクちゃんの登場で刺激されたのか赤い女が、引き戸を開けて、とうとう部屋に入ってきた。

そしてフクちゃんを見つけ、胴体を掴み逆さにぶら下げると足からバリバリと食ってしまう。

食われながらフクちゃんは、「ハラヘッタ、ハラヘッタ」と喋っていた・・・。





「うわああああ」

友人がパニクって、部屋のカーテンを開けたんだ。

多分、窓から逃げ出そうとしたんだと思う。

カーテンの向こうから見えた、外の景色は真っ暗だった。

部屋の壁時計を見ると、朝六時を越している。

「ちょっと待て、もう夜は明けてるはずだ!」

しかし外はまるで深夜のように月もなく星もなく、ただ暗闇が果てしなく続いていた。

 

「やめろ、出るな!」

俺の制止も聞かず友人は窓の鍵を開け、そのまま外に飛び出した。

ここはアパートの一階なので、窓を開ければすぐ駐車場があり、すぐ道路へと出られる、はずだった。

だが部屋の外には、どこまでも続く暗闇しか広がっていなかった。

何も見えず、果ても無い。

どうするか、ここにいてもやられるだけだ。

俺も続くか、と身を乗り出したとき、スマホのバイブ音が響いた。

 

見ると、友人がライト代わりに使っていたスマホが、足元に転がっていた。

電話の相手は、先ほどのユカちゃんだった。

 

俺が電話に出ると、怪訝そうな声で、

「あいつは?、外に出てった・・・、そう・・・」

少し、間が空いた。

「いい、よく聞いてほしい」

ユカちゃんが落ち着いた口調で話す。

 

ひとりかくれんぼって、こっくりさんみたいな降霊術ってよく言われているんだけど、本当はね、呪術なんだよ。

自分に呪いをかけて、自分を殺させる儀式。

本当に危険なものだからね。

 

あと、これは言うかどうか迷っていたんだけど、

ひとりかくれんぼ」は、完全には終わることが出来ないんだ。

終わらせ方は知っていると思うけど、あれでは完全に閉じられない。

というか、どうやっても無理なんだ。

あいつは、一生ついて来るよ。

 

いい、よく聞いて。

私は今から自分の家に、呼び出した化け物を呼ぶから。

あいつのことは、もう忘れて。

多分、もう助からない。

私も、これからどうなるか分かんないけど、

やれるだけやってみるから。

もし駄目だった場合は、全部あなたのところに行くから。

そのときは覚悟してね」

 

そう言って、電話が切れた。

電話が切れて顔を上げると、部屋にいた女の化け物は消えていた。

外は日が昇り、夜が明けていた。





それから、まる一日かけて友人を探したが、結局見つからなかった。

夕方、自分の部屋で途方に暮れていると、うちの近くに数台のパトカーがやってきた。

それから、近所にある数年空き家になっている民家で、友人が発見された。

朽ちた風呂場の浴槽に雨水がたまり、そこに沈められて死んでいたという。

体には、何本も包丁が刺さっている状態で発見されたとのことだ。

 

数日後、ユカちゃんが住んでいたアパートに行ったが誰も出ず、

一階に住む大家さんに事情を話して開けてもらったが、

部屋の中央に、むしられた髪の毛の束だけが落ちていた。

とくに、部屋は荒れていなかった。

大家さんは、血相を変えてどこかに電話していたが、俺はその場を後にした。

なので、ユカちゃんのその後は分からない。





これで、この話は終わりだ

とりあえず、今は無事に生活している。

俺はあれから大学を卒業し、地元の小さい会社に就職できた。

最近は、任される仕事も増え、順調に生活できていると思う。

ただ最後の、先輩のあの言葉が頭によぎる。

 

「あいつは、一生ついて来るよ・・・」

 

どうか、この生活が一日でも長く続くことを願っている。

とりあえず、今は生きているが、明日はどうなっちまうか分かんないから、これを書き込んだ。

これを見て、俺のことを覚えていてくれる人がいることを願って。

誰からも忘れられて死んでいくのも寂しいからな。

お前らは、いい人生を全うしろよ。

じゃあな。