人間は死ぬとどうなるのか?考えだすと途方もない難問だが、ホラー映画監督は少なくとも自分の撮影現場ではその答えを出さなければならない。幽霊役の俳優が「どんな表情をすればいいか」と聞いてくる。監督は「悲しい表情です。死は悲しいものだから」と答える。照明技師が「どんな光を当てましょうか」と聞いてくる。監督は「当てないでください。死は暗闇と同じだから」と答える。

しかし最近これが変わってきて、「どんな表情を」という問いには「普通に」と、「どんな光を」という問いには「普通の光を」と答えることが多くなった。いかなる心境の変化なのか自分でもよくわからないのだが、どうも死はごく普通のことのような気がしてきたのだ。死んだらもちろん目には見えなくなる。でも、ごく普通に存在しつづけているんじゃないのか。それは意外や…風に似ているのかも… ホラー映画を撮ったおかげで、そんなことを思うようになった。

— コラム Vol.6 幽霊映画 黒沢 清 | 文化庁メディア芸術プラザ