「私は、新築の一軒家に引っ越してきた主婦です」
夫の仕事の都合で、この静かな郊外の住宅地に移り住むことになりました。
幼い娘と三人で、新しい生活への期待に胸を膨らませていたんです。
しかし、その期待は恐怖に変わっていったんです。
最初は些細なことでした。
誰もいない部屋から聞こえる物音。
深夜に聞こえる、子供の泣き声のような不気味な声。
壁に現れては消える、顔に見える気味の悪い染み。
そして娘が、見えないお友達と話すようになっていったんです。
初めは想像上の友達だと思っていたんですが、少し度を越していると感じました。
近所の住人たちの態度も異様なんです。
私たち家族を見る目に、どこか警戒するような、恐れるような印象を受けました。
それでも、家族3人で新しい生活を送っていこうと思っていたんです。
ある日、庭仕事をしていると土の中から古い人形が出てきたんです。
その周りには、びっしりと骨のような物体が埋まっていました。
あまりに恐ろしく震える手で警察に電話をしたんですが、いたずらは止めてくれと言い残し帰っていきました。
確認すると、私が掘り起こされた骨のようなものが、跡形もなく消えていました。
夫は私の訴えを取り合おうとせず、娘の様子の変化にも無関心なんです。
孤独と恐怖で、心が押しつぶされそうになる日々。
もう駄目だ。
そんなある日、私は目が覚めました。
「私は、精神科医です」
目の前にいる男は、殺人容疑で収監されている患者です。
新居と思っていたものは、刑務所内にある保護室でした。
娘は、患者が幻覚で見ている殺害された被害者の少女でした。
私は患者の精神鑑定にのめり込み、彼の精神世界に入り込みすぎてしまっていました。
現実に戻った今、患者についての報告書を読んでみます。
彼の起こした殺人事件の詳細を、徐々に思い出していきました。
そして私が以前、事故で失ってしまった夫や愛娘のことも。
あの不気味な現象の正体は、彼自身の記憶や後悔の念、そして私自身が抱えるトラウマなんでしょう。
それらが、あるタイミングで入り混じってしまったのだと思います。
すべての謎が解け、私はまず自分の精神状態と向き合う決意をしました。
そして、かつて私が新居だと思っていた保護室を出た時、廊下の向こうに「娘」の姿を見た気がしました。
私の目は現実を映しているのか、それとも再び幻想を見ているのか。
その答えは、今もなお曖昧なままです。