MIDNIGHT WAVE

 

深夜2時。FMラジオ局「MIDNIGHT WAVE」のスタジオ。
人気番組「真夜中のミッドナイト」を終えた月島静は、静まり返った空間で、かすかなノイズに耳を澄ませていた。
それは、数週間前に事故で亡くなった親友・理沙の声に聞こえた。
「聞こえる…? 静…」。

静は、穏やかな声と優しい語り口でリスナーを魅了するラジオパーソナリティだった。
しかし、内気で引っ込み思案な彼女は、現実世界ではうまく自分を表現できずにいた。
ラジオだけが、彼女にとっての安息の地だった。

理沙の声を耳にした日から、静の周りでは奇妙なことが起こり始めた。録音機材からノイズが消えなくなり、自宅の電話には無言電話がかかってくるようになった。そして、決定的な出来事が起こったのは、理沙の葬儀を録音したICレコーダーを再生したときだった。

「…助けて…静…お願い…」

ノイズに紛れて、確かに理沙の声が聞こえたのだ。

静は、都市伝説を思い出していた。「死者の声は、電波に乗って、この世に迷い込むことがある」という話を。彼女は、理沙の声が、電波を通して自分に語りかけているのだと考えるようになる。

「真夜中のミッドナイト」宛に、不気味な内容のメッセージが届き始めた。差出人は、「死者の声」を聞いたと語る、顔も名前もわからないリスナーたちだった。静は、恐怖を感じながらも、どこか冷静だった。彼女は、「死者の声」は、何かを伝えようとしているのではないかと考え始める。

しかし、静の周りの不可解な現象は、日に日にエスカレートしていく。ラジオ局の機材が暴走し、スタジオの窓ガラスに何者かの顔が浮かび上がる。そして、「真夜中のミッドナイト」のヘビーリスナーを名乗る人物が、不可解な死を遂げる。

警察が発見したヘビーリスナーの部屋には、一枚のメモが残されていた。

「月島静の声は、死者たちを呼び覚ます…」

静は、戦慄する。彼女は、「死者の声」を呼び寄せる媒介であり、彼女の優しい声が、悪夢を拡散させていたのだ。

最後の放送で、静は、リスナーに語りかけ、死者たちの無念を代弁しようと試みた。しかし、それは、彼女の望みとは裏腹に、より多くの「死者の声」を引き寄せる結果となってしまう。

静は、すべてを悟った。

(私の声は、彼らを苦しめている…)

最後の望みを託すように、静は、ラジオを通して、死者たちへの鎮魂歌を歌い上げる。それは、もう二度と誰の声も届かない、静寂の世界への祈りだった。

翌朝、静は目を覚ます。いつも通りの朝が来たように思えた。しかし、街の様子は一変していた。人々の姿はなく、車も走っていない。静まり返った街は、まるでゴーストタウンのようだった。

静は、ラジオをつける。ノイズだけが流れる無音の電波。しかし、静にはわかった。死者たちは、今もそこにいる。彼女の優しい声を待ち続けているのだと。

静は、いつものように「真夜中のミッドナイト」の放送を開始する。語りかける相手はこの世にはいない。孤独に耐えかねた静は、リスナーに代わって、「死者の声」でメッセージを送り始める。それは、かつて彼女が癒やされた優しい声色で…。