猫とおっさん【笑える怪談】

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笑える怪談

猫とおっさん

 

 

うちの猫が、床から十数センチ離れた空間に、必死に猫パンチをくらわせていた。

近づいてみても、虫すらいない。それなのに、必死に猫パンチ。

 

いい加減に止めないとアホになるんじゃないか、と心配していたら、通りすがりの弟が、鼻息を荒げている猫をひょいと持ち上げ、その場から撤去した。

 

夕飯時に、猫が空中を殴打していたという話をしたら、

「おっさんが生えてた」

弟がボソッと呟いた。

 

床から、おっさんが顔半分だけ生えていて、猫はその控えめな頭髪に覆われた頭を叩いていたんだそうだ。

 

最初は迷惑そうだった、おっさんの顔が、徐々に泣きそうになってきた。

かわいそうだったので猫を撤去したんだとの事。

 

今日も猫は、おっさんが生えているであろう空間を、無我夢中で殴打している。

 

 

昨夜、うつぶせで寝ていたら金縛りにあった。

声帯が思うように動かず声も出せない。

 

だんだん背中が痒くなってきて、

掻きたいが金縛りで動けずどうにもならない。

 

いい加減イラついてきた頃に、野太いおっさんの声で

 

「ええか、ここがええんか」

 

と囁かれながら、背中を掻かれた。

ここがええのんか、などとテクニシャンな台詞を言うわりには、痒い場所とは見当違いの所を掻かれ続けた。

 

十分ほどで金縛りから解放されたがイライラだけが残った。

体が自由になり、恍惚とした想いで痒い場所を掻きむしっていると、先程と同じおっさんの声が聞こえた。

 

「なんだよお、痒いところ言えばよかったじゃないかあ」

 

無念そうな声色だったが、喋れなかったのでどうしようもなかった。

 

以前、猫にしばかれていたおっさんかと思ったが、弟の話によると未だに床から生えており移動していない。

 

ここ何日かは、猫が機嫌の悪い時にサンドバック代わりにされているだけだそうなので、違うと思われる。

 

むしゃくしゃしている猫は容赦なく雛鳥のような頭を殴打するため、おっさんの頭には血が滲んでいることもあるのだとか。

 

 

覚えてらっしゃるでしょうか。猫にハゲ頭をしばかれるおっさんの話を投下した者です。

 

「姉ちゃん、あのおっさんいねえよ。成仏したっぽい」

弟はここ暫く、おっさんの雛鳥のような頭を見なかったらしい。

自分には元から霊感というものはないので、彼が居ようが居まいが何の変化も感じないが、そういう類のものが視える弟は、

「観察日記つける前に消えやがって」(声は変えない)とぼやいていた。

 

当の加害者である猫も、おっさんが居なくなって数日は、いつものふてぶてしい顔にうっすらと哀愁の入り混じったような表情で、

 

「ぬあーおん、まおーん」

と鳴きながら、おっさんを家のあちこちを探し回り、諦めて不貞寝する、という行動を日に何度も繰り返していた。

 

しかし、おっさんは再び現れた。

家の敷地内から200メートルほど南にある祖父の畑で、真昼の燦燦とした日差しを浴びながら、恍惚とした表情で土に埋まっていたらしい。

 

ここならば、あのケダモノに見つかるまいとでも思ったのかもしれないが、その目論見は甘かった。

 

その日の夕方には、飼い猫がよくつるんでいる野良の茶トラ猫と共に、おっさんを殴打している光景を弟が目撃した。

 

光合成でもしているのだろうか。

陽光を浴びたからといって髪が育つ訳でもないだろうに。

移動もできるのなら、なぜ逃げずに二匹の猫にしばかれているのか。