違う景色
何作か切ない話が続いていたので、今回はとっても怖い学校のお話です。
あなたの通っている学校や会社にも、同じようなモノが住み着いているかもしれません。
You Tubeで、ゆっくり朗読を上げています。
「違った景色」
これは私が中学生の頃のお話です。
当時中学校1年生だった私は、クラスにうまく馴染めず、さらには一人の女子から執拗にいじめを受けていました。
そのため、学校に登校しても教室より保健室に行くことが多い日々を過ごしていました。
そんな時によく相談に乗ってくれていたのが、月に1回の頻度で来てくれる心理カウンセラーの女性の先生でした。
正直、いじめてきた彼女に何かをした覚えがなく、その為、いじめられる理由がわかりません。その先生に毎回泣きながら学校に来るのが辛いことを話していました。
私が泣いた後は、先生は決まって校内の人気の少ない場所を選んで一緒に散歩をしてくれました。
学校に来るのは辛かったのですが、その先生と過ごす時間は大好きでした。
ある日、その先生が前の仕事が押して到着が遅れるとのことで、私は保健室で一人で待っていました。
しかし、待っているだけなのも退屈です。
『先生がいつ来るかわからないし、たまには一人で散歩してみようかな』
そう思い、保健室を出ました。
私は今まで行ったことのなかった、用具室や特別授業で使う教室が並ぶ4階へと足を運びました。
耳を澄ませても声や音がきこえず、授業している様子がなかったため、わたしは誰とも会う心配がないと、安心して歩き出しました。
それぞれの教室を外から見渡しながら、廊下の真ん中辺りまで来ました。
視線を教室から再び前の方へ向けた時、一番向こうの階段横にある防火扉も視界に移りました。
その防火扉の後ろから手だけが出ており、こちらへおいでおいでをしています。
私の心臓がドクンと音をたてるくらい驚きましたが、
『もしかして先生が、私がいないことに気づいて迎えにきてくれたのかもしれない』
そう思いました。
先生が来てくれたのが嬉しくて、先ほどより早いスピードで歩みを進めました。
しかし突然『走って！』と大声がし、後ろからぐいっと腕を進行方向と反対の方へと引っ張られました。
私は何が起きたのかわからず、後ろを見ると先生が私のすぐ後ろにいました。
私は『あれ！？』と思い、再び防火扉の方向を見ると
そこには先程の手はなく、防火扉の後ろから顔を半分だけ横向きに出し、両目をカッと開いた女の子がいました。
見たのは、数秒程度かもしれません。頭の大きさや目元の感じから、同い年ぐらいなんじゃないかと思いました。
私は先生に手を引っ張られながら、元来た道へと走り出しました。普段から運動を全くしておらず、小学校の頃から大の苦手でした。
全速力で走る先生に腕を引っ張られながら走ったことで、何度も転びそうになりました。
なんとか1階にある保健室まで戻り、2人とも勢いよく倒れ込む形で入りました。
先生は呼吸を整えた後『急に大声出しちゃってごめんね、びっくりしたよね』といつもの優しい声で私に声をかけました。
私は『…いえ…大丈夫です…』と喉に血のような味がするのを感じつつもなんとか答えました。
先生は『あの手は生きているものの手じゃない』と前置きして話し始めました。
『実はね、今まであなたに言ったことなかったけど、先生ね、霊感があるの。色んな学校にカウンセリングに行っているけど、やっぱりどこの学校にも霊はいるんだ。でも悪い霊ばかりじゃないのよ。近くにいる霊達が脳内に語りかけてくることがあるんだけど、そんな時は話を聞いて解決するの。でもあの霊達は話し合えるような雰囲気じゃなかった』
先生の言葉に違和感を覚えながらも『じゃあ、おいでおいでをしていた手は、あっち側に呼ぼうとしてたってことですか』と聞きました。
先生は、震える私を宥めようと背中をさすりながら『そうね…でもあなたにも見えるなんて思わなかった。
あんなに〝たくさん〟の手と顔が見えたら、いくら見える人でも怖い思いをするよね』。
私はそれ以上、先生に何も聞く気になれませんでした。
卒業まで4階には授業以外で行くことはなくなり、特に防火扉側へは絶対に行かないようにしました。
それ以降、あの手も顔も見ることはありませんでした。
あの霊は、私がその頃心の中で思っていた『こんな人生なら生きていても意味がない』
そんな希死念慮が呼んでしまったのでしょうか。
見えない方が良かったと今でも思いますが、先生のように〝たくさん〟見えなくて良かったとも思います。
お話
ホラーホリックスクール図書館より
「違った景色」
