「オキテル」

来週の週末にでもアップできるかな、と思っていたヒトコワ話ですが、

短かったので、さくっと作っちゃいました。

まったく、季節感もなにもない真夏の怖い話ですが、

「寒いからこそアイス」的な感じで宜しくお願いします(汗)

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「オキテル」

 

昔、友達と海に行った時の話。

砂風呂をやろうとしたんだけど、あんまり人目が多い場所だと

ちょっと恥ずかしい。

だから人気のないところで、友達に砂かけて埋めてもらったんだ。

 

日差しは強かったけど、

顔には、日除けのパラソルがかかるようにしてもらって

とても快適だった。

それで、すぐにウトウトしてしまったんだ。

その時、不意に誰かが近づいてくる気配がした。

 

「オキテタラヤル」

 

若くはない女性の声がした。

 

友達の声じゃなかったし、妙に抑揚が無いしゃべり方だった。

かなり眠かったから無視したんだけど、

結局それきり声はかけてこなくて、気配もすぐ立ち去った。

 

しばらくして、砂から出て友達と海で遊んでた。

人も少なくなって、そろそろ帰ろうかというときに、

パラソルをあの場所に置いてきてしまったことを思い出して、

取りにいったのね。

 

言い忘れてたけど、あの時に砂から出る際、

人がまだいるかのように砂を盛り上げて、

パラソルも、顔に当たる部分が

見えないように配置していたわけよ。

 

友達を驚かそうとしていたんだけど、

結局待つのがめんどくさくて、

すぐに別の場所で合流してしまったんだけどね。

 

パラソルを取りに戻った俺が見たのは、

俺のじゃない別のパラソルが、

砂の盛り上がった部分に、

何本も突き刺さっている異様な光景だった。

 

俺のパラソルは切り裂かれて、

顔があるべきはずだった場所に、垂直に突き刺さっていた。

あと、何故かカミソリが、頭と胴体の間にめり込んでいる。

正直怖かったし、怖い話のテンプレみたいだなと思った。

 

とりあえずゴミはまずいから、

自分の分のパラソルの残骸は持って帰ろうと思って、

思いっきり深く刺さってたそれを、軽い怒りと共に引き抜いた。

 

そしたらさ、遠くからなんか声が聞こえてきて、視線を向けると、

結構長い砂浜の向こうから、ものすごい勢いで走ってくる奴がいるのよ。

で、そいつがなんか叫んでるの。

 

(オキテル・オキテル・オキテル繰り返し)

砂浜を走る音>声

 

まだ残っていた人たちが、そいつからあとずさっているのはよく見えた。

もう俺もすぐに走って車に戻って、

よくわかんない顔してる友達を車に乗せてさっさと逃げた。

 

焦ってはいたが、距離はかなりあったので結構余裕ではあった。

ただ、笑いながら「オキテル」「オキテル」と走ってくる姿は

一生、忘れることができないだろう。